秋岡芳夫さんにきく食器選びのこつ
ベストセラー『食器の買い方選び方』(新潮社)の著者、秋岡芳夫(工業デザイナー)によるダイニングテーブルと食器選びのガイド。1994年に雑誌『ハイミセス』に掲載されたインタビュー記事を出版社の許可を得てオンラインコンテンツとして再録しました。日本人の暮らしや身体尺度に合わせて、モノを選ぶ方法がわかりやすく紹介されています。
日本の伝統を見直す“新和風”の提案
使いやすく美しい食器の開発やデザインを長年手がけてこられた工業デザイナーの秋岡芳夫さんが、食器も含めた食生活のスタイル全体について今、提案なさっているのは“新和風”スタイル。
「それは、日本の伝統のいい部分だけ残して、悪い部分はばっさり切り落とすということ。これが僕の基本的な考え方なんです」
中でも一番に見直したい伝統は、贈答の習慣。 結婚式などの引出物になべや食器をよくもらいますが、これぞ諸悪の根源なのだそう。
「50代以上のかただったらもったいないという日本語もご存じだし、捨てるのは悪いというのもわかるんだけれど、そのへんをこの際、思い切って整理する必要があります」
確かに“もらい使い”でまにあわしていては、ほんとうに気に入った器の入る余地などないかもしれません。
「その贈答品の背景にあるのが、ハレとケの問題ですね。これも一度洗い直してもいいんじゃないか。 ハレとケとは、きものでいえば晴れ着とふだん着ということですが、食器にもあります。総じていうと、ハレのものに値段が高く、デザインのいいのを今まで皆使っていたと思うんです。つまりお客さま用に、輪島塗のお椀をそろえて、どこかにしまい込んだり、お正月に一遍だけ重箱を出してきて使う、と。でもこの伝統には、僕はバッテンをつけたいんですよ。 そしてどうするかというと、塗りのお椀や重箱は、ふだん使いに降ろしちゃう。重箱もね、サンドイッチなど入れておくと、乾かなくてすごくいいんですよ。それにハレの食器をふだん使いにすることによって、いい食器の楽しみ方を子どもや孫たちに教えることもできます」
食器を選ぶ前に考えたい食卓のスタイル

食器を選ぶ前に、考えておきたいのが食卓のこと。「まずテーブルを選び、それにふさわしい食器を考えるのがいいでしょう」
現状は日本中、まず9割がたの人が家庭で、洋風のテーブルで食事をしていますが、これはまだ歴史が浅く、一般的には、45年ぐらい前からの食風俗だそうです。
「あのテーブルの高さは、靴をはいて食事をするときにはよくても、素足には高すぎる。なべ物料理をするにも高すぎるんです。ですから、まず、テーブルを低くする。その次には、ちゃぶ台にならって丸くするんです」
小さな四角いテーブルだと、4人座ればもう一杯ですが、ちゃぶ台は4人用が基準でも、ちょっと詰め合わせれば6人まで楽々と座れます。
「もう一つちゃぶ台に学んで、脚を折り畳みか、なしにして、こたつ板のように何かにのせる方式にする。 僕は大中小3枚、この丸い板を用意しています。人数によって替えればいいし、用がすんだら転がしてかたづけてしまえばいい。 コミュニケーションの点でも、対立関係になる四角より、丸のほうが和気あいあいと皆で食事をするのに適している」
さらに、新和風スタイルの提案の1つとしてあげられるのが、回転するお膳。
「中国料理の回転テーブルで、僕はこれを回転膳と名づけていますが、とても便利に使えるんですね。僕、もう70過ぎているから、テーブルの向う側に手が届かないんですよ。これがあればビールも好きな人のほうに回してやれば、注がなくてすみますし」
この回転膳を使って取り分けて食事するスタイルには、次のようないい点もあります。
「日本人の食事の世界的な特色を、専門家は口中調味といっていますが、これは健康にすごくいいので、特に50を過ぎたかたにはお勧めです。これは簡単にいうと、たとえばフルコースの料理が一遍に食卓に出てくること。食べる順番を、フランス料理レストランのように、強制されない、ということです。わが家のように3世代、 4世代で食事をすると、同じ食事の時にハンバーグと煮物とピザが同居しかねない。そういう場合に、日本独特の口中調味という基本でやれば、自分の食べたい順番に、自分の体調、年代に合わせてセレクトできるわけです」
新和風スタイルに合わせた食器選び

そういった食事の形態に都合のいい食器ということを考えると、まず、皆で使う共用器、料理一緒盛りの大きな鉢や皿が中央に来るため、手もとの器、いわゆるめいめい器は小ぶりで手に持ちやすく、軽いものにします。
この手もと器も共用器も、できたら一器多用に。つまり、和洋中、どんな料理にも合うものにするということです。そしてかたづけやすく、洗いやすいものを選びましょう。さらに、重ねやすいことも大切なポイントになります。以上の基本に従って、器を選んでみたら、秋岡さんのお宅では、次のようなことになりました。
[手もと器]
● 皿
——大中小3枚の深さのあるガラス皿。これに自分のお箸と、グラスと、お茶碗とお椀がくれば、全部の料理に対応できます。うちでは、基本的には手もと器はこれだけ。朝昼晩とこセットが登場します。一緒盛りにしたおかずを、このお皿に取って食べるわけですが、深さがあるのでカレーやおでんなどの汁気の多いものもこれで。分量が少なければ、おかわりすればいいんですから。
大事なことは、深い皿ということで、ガラスである必要はありません。メーンの取り皿寸法が5寸、つまり15センチ(以下も含む)という基本で選べばいいわけです。 古い民芸品でも、焼き物でもいい。深皿でお勧めは、江戸時代のうどん皿。 切込みともいっていますが、今はこれは砥部(愛媛)で作られています。

ちなみに基本の15センチという寸法は、片手で上からつかむことのできる限界の大きさです。さらに高台がしっかりしていて、指がかかって持ちやすく、食べやすい器がいいということ。その点でお勧めできるのは、 室町時代からある、赤飯を食べるための椿皿。ケーキも羊羹ものせられ、和洋に使えていいんですが、お値段が張るので、全く同じ寸法の木の皿を作りました。 持ちやすく、重ねやすく、軽くて、何をのせても大丈夫、食器洗いにもかかるので便利です。

この15センチの5寸皿に加えて、 4寸 (12センチ。 男物の汁飯、茶碗の口径と同じ)の皿、3寸(9センチ)の豆皿があれば用はだいたい足ります。
洋風の皿というのは、スープ皿はスープ以外に使いにくいし、大きなミート皿は、日本の狭いテーブルじゃ置きにくい。また、ミート皿みたいに浅いと、手に持ったときにこぼれてしまいますから、日本の深皿ということになるわけです。
それ以外に、大きな魚を1尾、というときには板のような長皿を使っています。この皿は、魚以外にも、すしを一緒盛りで取ったときなどに取り分ける皿にもいいし、1杯飲みながらのおつまみ、乾き物やそら豆なんかの取り皿にいいですね。
● グラス
——僕はいちばんきらいなのが洋風のグラス。シャンパンはこのグラスで、赤ワインはこれで、ウィスキーはロックのときはこれでなくては、と全部決まっていて、器が人間に命令しているみたいですね。この考え方はロックを通り越してバロックですよ。
数年前から、うちではファミリーグラスと名づけた、何でもこい、というグラスにしたら、これが評判がいいんです。 ジュースでもビールでもワインでも、この大小1組みですべて対応できます。特に、子ども用に使えるこの小のサイズというのは、世界中探してもなかなかないんです。これでワインや焼酎をやってもいいし、子どもはジュースやミルク。ですから、孫の誕生日というときも、全員のところにこれがペアで配られる。大人も子どもも皆同じスタイルのグラスで乾杯するわけです。一器多用に加え、子どもにもスポンジなしで洗えるし、重ねてしまえる点もいいです。
● 汁椀
——漆塗りの、質のいいものを選ぶ。といってもよしあしはなかなかわかりにくいので、産地でいうと今、いい漆器を作っている能登の輪島か福井県の河和田のものがお勧めです。漆器は値段も選ぶ目安に。河和田なら1客、ふたなしで1万2千円以上、輪島なら2万円以上のものにすれば、長く使えるでしょう。
●湯のみ
——江戸時代のそばちょこ。模様のそろったものは1個1万円もしますが、側面が直線状なので深く重ねられ、たくさん積み上げても安定がいい。うちではお茶もコーヒーも、皆、このそばちょこで飲んでいます。

[共用器]
——真ん中に一緒盛りにする器は、深さのあるどんぶりでは、テーブルの上では中が見えにくいので、避けたほうがいいですね。深めの大皿や、浅めの鉢がいいと思います。うちでは、おひつも浅いものを使っています。たまにまつたけご飯や炊込みご飯をしたときに、このおひつを回転膳に置いて、好きなだけおかわりをする。「グルメのおひつ」と呼んでいます。

出典情報
掲載誌:『ハイミセス』1994年9月号
記事タイトル:「秋岡芳夫さんにきく食器選びのこつ」
該当ページ:112〜115頁
発行元:文化出版局
※本ページの掲載記事の無断転用を禁じます。当社は出版社および著作権継承者の許可を得て掲載しています。
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