坂田太郎・中島靖高『はじめての金継ぎ』
『はじめての金継ぎ』は、東京藝術大学大学院で漆芸を修めた坂田太郎さん・中島靖高さんが監修した正統派の入門テキスト。現役講師であるお二人だからこそ、初心者がつまずきやすいポイントを熟知した解説が魅力です。基本の工程から失敗した時の対処方法まで、丁寧に導いてくれる本書があれば、もう一人で悩む必要はありません。
つまづいたときに振り返ることができる一冊を選ぶなら
私は漆器の製作を生業にしていますが、20年ほど前から知人の依頼で茶道具の金継ぎ修理をするようになり、友人たちにその技術を教えるようになりました。
金継ぎは、割れたりした器を漆で貼り合わせ、最後に貼り合わせたところを金で仕上げることから、「金継ぎ」と呼ばれています。金継ぎは主に陶磁器の修理に用いられますが、その技法は伝統的な漆芸の技術で、漆芸や漆塗りに関わる人が携わって来ました。しかし、最近、壊れた愛用品を修理して長く使いたい、それも自分で修理したいと思う人が増え、金継ぎの方法についても多くの解説書が出版され、多くの教室も出現しました。
かく言う私も2024年から、恩師である工業デザイナーの秋岡芳夫先生が始められたモノ・モノが主催する金継ぎ教室で講師をしています。教室ではその場で実際に生徒さんと一緒に作業を行って技術を学んでいただくのですが、その場では理解しても、学んだことをしっかり身につけることはなかなか難しいことです。作業の大半は、手の感覚で覚えないといけないことも多く、そのためには何回も繰り返し練習することが必要になります。
しかし、手を動かす以前に材料や道具の調整法、作業の手順等を覚えることも大変で、時間が経つと、忘れてしまうことも多いものです。そんなときに役に立つのがこの本です。
金継ぎの基本中の基本、筆とヘラ使いがわかりやすく学べる
前置きが長くなりましたが、私が今、生徒さんにお薦めしているのは、「はじめての金継ぎ」というタイトルの金継ぎ技術の解説書です。
この本では器の破損状況に対応した個々の技法が写真入りで、詳細に解説されており、リアリティあふれる感覚で復習することができるのですが。私がこの本でよいと思ったことは、作業のほとんどの各所作を写真入りで丁寧に解説していることで、特に金継ぎの2大道具である筆と箆(ヘラ)の使い方をもその持ち方も含め、丁寧に解説している点です。きれいな金継ぎができるかどうかはまさに筆と箆(ヘラ)の使い方で決まってしまうと言っても過言ではなく、私がこの本を自分の教室の生徒さんにお薦めする理由です。
また、この本の著者は漆芸、それも蒔絵の専門家であり、伝統的な漆芸の技法は産地や作られるものが違ってもほとんどが同じ内容なので、自分が習っていることと食い違いなく練習や復習ができるのです。私は教室での作業を生徒さん自身が詳細に記録することで、自分の教科書を作ることが大事であると思っていますが、この本の著者もそのような観点で、しかも作業の内容を視覚的に伝えようと執筆していることが感じられます。
この本をはじめから通して読むと、金継とはどのようなものかを理解できると思いますが、この本の最大のよさは、自分が作業した内容をこの本の事例と比較して確認したり、作業の中で生じた疑問、忘れてしまったことの再確認などを視覚的に行える点だと思います。そのような意味で私はこの本を金継ぎを行っている人の座右の書にしていただきたいと思うのです。
東京藝術大学大学院で漆芸を修めた坂田太郎さん・中島靖高さんが監修した正統派の入門テキスト。
購入ページはこちら評者の紹介
1951年東京都生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。同大学大学院修了。在学中に漆芸家の音丸香氏に師事。1978~2012年まで岩手県工業技術センター勤務。在職中に「浄法寺漆器の復興」に関する論文で博士号を取得。産地振興と浄法寺生漆の活用に関する研究を長年行う。2014年町田俊一漆芸研究所を設立。日本工芸会正会員。角川学芸出版『漆工辞典』執筆メンバー。
漆を使った本格的な金継ぎのテクニックを教えてくれる良書。著者は東京藝術大学大学院美術研究科漆芸専攻出身で漆芸家の伊良原満美さんと中村真さん。金継ぎの技法だけでなく、基礎知識から漆の調合まで幅広く網羅されている。技法が豊富な写真とともに詳しく解説されているため、初心者に限らず経験者にとっても有益な一冊です。

