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2026.05.15 暮らしの図書館

柳原尚之『美しい箸の使い方』

最後に箸の使い方を意識したのは、いつのことでしょうか。日本人にとって、箸を使った食事はあまりにも当たり前。自己流に慣れて無作法になっていても、なかなか自分では気づきにくいものです。NHK番組のテキストとして発刊された本書は、知っているつもりの箸使いを改めて見直すきっかけとなる一冊です。理にかなった箸運びは、無駄な力が抜け、より美しくスマートにお料理を口へと運びます。手元の所作を少し変えるだけで、食事の風景は凛と整い、いつものお箸がもっと素敵な道具に感じられるはずです。

「美しい箸の使い方」

江戸懐石の第一人者による「美しい箸の使い方」

こんにちは。モノ・モノスタッフの東瀬です。お箸使いには自信があり、小豆掴み競争があれば率先して参加したいと常々思っています。しかし、そんな私でも目から鱗が落ちる思いだったのが、今回ご紹介する一冊です。

お箸の基本動作と聞いて、いくつ思い浮かびますか?

本書によれば、すくう、のせる、つまむ、寄せる、切る、はさむ、押さえる、はがす、ほぐす……などなど。なんと豊富なことでしょう。これらすべてを、指先の延長にあるわずか二本の棒だけで行っている。そう考えると、毎日何食わぬ顔でお箸を操っている自分をちょっと褒めてあげたくなりました。

本書の監修者・柳原尚之さんは、江戸時代から続く「江戸懐石近茶流」の継承者。ドラマや映画での所作指導も手掛ける柳原さんが説くのは、決して堅苦しいマナーの押し付けではありません。二本の棒を体の一部のように使いこなし、繊細な動作を実現する。そのコツを学ぶうちに、見慣れた食事風景が、どこか職人技の連続のようにかっこよく見えてきます。

普段は何も考えずに口に運んでいるようなものでも、実は箸使いひとつで食事風景はがらりと変わります。例えば、ツルツルと滑り落ちそうな里芋の煮物。箸先を揃えてすっと切り、その平らになった断面を上手に活用する。たったそれだけで、手元は美しく安定します。

また、薬味がたっぷりの冷ややっこ。そのまま崩して食べるのも醍醐味ですが、箸先でそっと薬味を寄せ、切り分けた一口分に改めて薬味を乗せてから口へ運ぶ。そのひと手間で、動作が綺麗に整います。

正しい箸さばきで食べると、食事がおいしくなる

さて、この本を読み終えた私は、職場から歩いて30秒先の定食屋さんに向かいました。注文したのは焼き魚定食。この日のお魚は、アジの開きでした。姿焼きで腕試しといきたいところでしたが、開きでも十分な特訓になりました。

席につくとまずは、紙の箸袋を折って箸置きの用意を。美しい箸使いには、箸置きで箸を休める手順もありますので。いよいよ定食が到着したら全体を眺めて、これからどんな風に食べ進めるか想像して……。この時点で、本を読む前よりもはるかに、食事を楽しむ気持ちが高まっていることに気がつきます。

食べる最中も、本で読んだことが頭をめぐります。「ごはんの一口目は、真ん中の一番盛り上がっているところから!」「魚の身は一口分ずつ左側から食べ進める」「汁物に両手を添えて飲む時は、箸を一度箸置きに置く」。ひとつひとつの箸さばきを意識しながら食べた結果、普段より食事のスピードがゆるやかになり、改めてお料理それぞれの味・食感を堪能することができました。

箸使いを見直すということは、食事を美味しくいただくこと。それが、この本を読んだ私の収穫です。

「魚は左側から食べる」にならって、とり天もなんとなく左側から食べ進めました。

(スタッフ・東瀬)

美しい箸の使い方
美しい箸の使い方
著者:柳原尚之装丁:B5判・72ページ発売日:2021年09月25日

ドラマなどで料理監修や料理所作指導も行う講師が、美しい箸の持ち方や動かし方をわかりやすくレクチャー。

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評者の紹介

低座の椅子と暮らしの道具店・編集部
低座の椅子と暮らしの道具店・編集部

低座の椅子と暮らしの道具店・編集部は、東京・中野のクラフトショップ「モノ・モノ」内にあります。スタッフは7名(リモート含む)。元フリーライター、通販会社の元社員、木工インストラクター、ウェブデザイナー、漆芸家の卵など、多彩な顔ぶれがそろっています。

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日本刀の鞘の塗装に用いる石地塗という丈夫な漆塗を施した夫婦箸です。粗面仕上げで麺類もしっかりとつかむことができます。

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