日野明子『台所道具の選び方、使い方、繕い方』
クラフトバイヤーとして活躍する日野明子さん、待望の新著。漆器、鉄瓶、おひつ、鉄のフライパンなど、一度は使ってみたいけど、お手入れが不安で躊躇(ちゅうちょ)してしまう…そんな人のための買い物ガイド兼メンテナンスマニュアル。

天然素材の台所道具とストレスなくつき合うためのコツが満載
こんにちは。低座の椅子と暮らしの道具店のスタッフ井上です。まだ昼間は暑いですが、立秋を過ぎて、夕方には涼しい風が感じられたり、空気が少しずつ秋へと変わってきていますね。食欲の秋ということで、これから台所に立つのが楽しい時期がやってきます。そこで、お料理や食べることが好きな方におすすめの書籍をご紹介いたします。
使ってみたいけど、扱いが難しそうでためらっている台所道具はありませんか。
かつての私にとっては、漆器と蒸籠(せいろ)がそれでした。日本の手仕事の道具に興味を持ちはじめたばかりで、知識も経験もなく、興味はあるものの、なかなか使ってみる勇気が出ませんでした。そんな時に手にしたのが、日野明子さんの前著『台所道具を一生ものにする手入れ術』でした。
日本の手仕事の道具について調べていると、何度も目にする日野明子さんのお名前。故・秋岡芳夫さん(モノ・モノの創設者、工業デザイナー、共立女子大学教授)の教え子で、産地と使い手をつなぐ「ひとり問屋」というプロフィールに惹かれて、書籍を手に取ってみました。文章からは産地や作り手とのしっかりした関係性が感じられ、地に足のついた取材の姿勢に自然と信頼感を持てました。道具の使い方についても、丁寧で的確な説明があったので、気負わずに使っていいんだとわかって、心理的なハードルが一気に低くなりました。
日野さんの書籍のおかげで漆器を使うことに不安がなくなり、思い切って使ってみたら漆器の使い心地のよさにすっかり魅了されてしまいました。蒸籠も、今では気軽な調理道具として自宅で活躍してくれています。
それから数年が経ち、いろいろなめぐり合わせのおかげで、私は使う側から伝える側へ、さらには作る側へと歩んでいくことになりました。現在は、日野さんの大学時代の恩師である秋岡芳夫さんが創設した東京・中野の「モノ・モノ」で働いています。
日野さんの新著が出たことは、職場で知ったのですが、すでに日野さんの前著を持っていたので、正直なところ最初はあまり関心を持ちませんでした。ですが、今回きちんと読んでみて考えを改めました。
新著『台所道具の選び方、使い方、繕い方』も、基本的なテーマは前著と同じです。しかし、手にした時のずっしりとした重みとボリューム感は、台所道具についての事典と言ってよい内容です。ページ数が増えたことに加え、サイズも大きくなっていますので、写真が大きく見やすくなりました。さらに、読みものがとても充実しています。道具の歴史から素材についての解説、作り手さんの工房を訪ねたコラムに制作工程まで、フルカラー写真と共に紹介されています。
その中でも、特にわかりやすかったのはトラブルシューティングのページ。写真のセレクトが感動的です。例えば、鉄瓶の扱いが難しそうだなと感じる大きな理由に、サビの問題があります。鉄瓶にサビが出ても、お湯が赤くなければ飲んでも大丈夫と聞いたことがありました。でも「そもそもサビが出た状態ってどんな風になるの?」「お湯が赤いってどんな色なの?」「赤くなければってどのくらい?」と頭の中はモヤモヤでいっぱいでした。
ですが、この本には鉄瓶の中についたサビの写真はもちろん、さびた鉄瓶で淹れたお湯の写真まで載っていたんです!赤いお湯の色とサビを落としたあとのお湯の色が比較されていて、一気にモヤモヤが解消されました。漆器・せいろの次は鉄瓶と思いながら、ずっと先延ばしにしていましたが、やっと挑戦する気持ちが湧いてきました。
さらに、漆に携わるものとして嬉しかったのは、「漆は触って楽しむ道具」という言葉。お店で漆器を手に取るだけではわからないかもしれませんが、漆器の一番の魅力は肌触りのよさなのです。それを最も感じられるのは器を洗っている時なので、手で洗うことをもっと楽しんでもらいたいと常々思っていました。
漆器についてこのような言葉が出てくるのは、日野さんが作り手とたくさん話をしたからこそ。その他、越前漆器の工房で聞いたお話や漆器が作られる工程、さらに金継ぎの説明もありますので、ぜひじっくり読んでいただきたいです。
使うことの喜びを知った人間からすると、使う前の自分は心配しすぎだったなと思うのですが、使い方のわからない道具はとても遠い存在に感じられます。でも、ちょっとしたコツを知るだけで、はじめの一歩を踏み出すことがとっても簡単になります。ぜひ日野さんの書籍を手に取っていただき、思い切って挑戦してみてほしいと思います。
「料理し食べる」という日々の生活を支えてくれる大事な台所道具。だからこそ、できるだけ心地よい道具を使いたいし、大切に長持ちさせたい。その気持ちを後押ししてくれる、頼りになる1冊です。初めての道具を手にする時、愛用品にトラブルが発生した時、どうしたらいいか迷った時、ぜひこの本のページをめくってみてください。
(スタッフ・井上)

クラフトバイヤーとして活躍する日野明子さんの待望の新著。漆器、鉄瓶、おひつ、鉄のフライパンなど、一度は使ってみたいけど、お手入れが不安でちゅうちょしてしまう…そんな人のための買い物ガイド兼メンテナンス術の決定版です。
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低座の椅子と暮らしの道具店編集部は、東京・中野のクラフトショップ「モノ・モノ」内にあります。現在のスタッフは7名(在宅勤務含む)。漆塗研修所の修了生、木工インストラクター、ウェブデザイナー、元フリーライター、通販会社や家具メーカーの元社員など、多彩な顔ぶれがそろっています。