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COLUMN

木の家具とのつき合い方

「オイル仕上げの家具はお手入れが面倒そう、シミがつかないか心配」。そんなお客様の声を時折いただきます。答えはユーザーの考えによって変わります。お手入れを「木材への感謝」と考えれば楽しくなり、シミを「家族の歴史」と考えれば愛着がわきます。無垢材の家具とは、いかにつき合えばよいのか。その心構えを家具の歴史にくわしいデザイナーの笠原嘉人さんに教えていただきました。

文:笠原嘉人(インテリア・プロダクトデザイナー)

テーブルメンテナンス

塗装の美しさを愛でる、西洋の木工文化

木はとても長い寿命を持っています。立ち木として生きているあいだも、伐りだされて木材となってからも、人間よりずっと長い時間を耐えます。人の手が加えられ、建築や家具や道具に姿を変え、人の暮らしに寄り添うようになってからも、人の手で適切に環境を整えることで木は健康を保ち、さらに寿命を延ばし、それにともなって美しさも増します。つまり「手入れ」することで木のものたちとよい関係性を築くことができるのです。

今回は私たちの暮らしに最も身近な木製品として「家具」を取り上げてお話したいと思います。ただし前提として、椅子やテーブル等のいわゆる「洋家具」は、もともと日本には存在せず、明治の文明開化以降に入ってきたもので、基本的に西欧の文化の中で発展してきたものであることを知っておいてください。日本には西欧とは異なる、日本独自の木の文化があり、それらはまた別の機会にお話しします。

木製の「洋家具」にはたいてい塗装が施されています。塗装の役割は大きく分けてふたつあり、そのひとつは木材を保護することです。室内でも土足で過ごす欧米の生活スタイルでは家具を水分や汚れから守るために必須の仕上げなのです。

塗装のもうひとつの役割は木材を美しく見せることです。これは家具に使われる木材の性質に関わりがあります。椅子やテーブルの材料には主にオーク(ナラ)、ビーチ(ブナ)、アッシュ(トネリコ)などの「堅木」と呼ばれる広葉樹材が用いられますが、これら「堅木」の多くは木材組織の性質上、削っただけでは表面に艶がなく、色も少し白茶けた状態のままです。これに塗料を塗布して「濡れ色」にすることで、はじめて本来の色味が現れ、木肌の美しさを引き立たせることができるのです。

このふたつの目的を満たすため、欧米では古くから植物由来の原材料を用いて塗料としてきました。例えば植物に付くカイガラムシの巣を主成分としたセラックニスや、松ヤニを油で溶いたワニス、またミツバチの巣を溶かしてつくるビーワックス、ヤシの葉から採れる蝋を精製したカルナバワックスなどです。木材を保護し、木材の表面に艶を与え、木目を際立たせ、さらには色彩を加える。そうして「塗装文化」とも言うべき、木製家具における豊かな表現の世界を形作ってきたのです。

合成樹脂塗料は丈夫だが、塗り直しに専門的な技術が必要

第二次大戦後には、天然樹脂を用いた塗料に代わり、石油を原材料としたアクリルラッカーやポリウレタンなどの合成樹脂塗料が主流となりました。これらは木材の表面に非常に強靭な塗膜をつくり、木材を保護します。

例えば、ポリウレタン塗料で塗装されたテーブルの天板に醤油をこぼして放置しても、染みになりません。木材や家具を工業製品と捉えるなら、メンテナンスフリーで大変優秀といえます。ただ残念なことに、合成樹脂塗料は人工物の宿命として、塗り上げられた時点が最も美しく、そこから徐々に劣化が始まり、やがて美しさも失われます。その寿命は木材ほど長くは保ちません。

加えて日光が長時間当たる場所に置いたり、洗剤やアルコール消毒液で過剰に清掃したりすることが劣化をさらに加速させてしまいます。塗装が劣化したり傷ついたりした場合、天然樹脂の塗料であれば、比較的容易に塗り直しや補修ができますが、合成樹脂塗料は優れて強い塗料であるがゆえに、塗り直しには専門的な技術と多くの手間が必要になります。

自分でお手入れできるのがオイルフィニッシュのよさ

近年はシックハウス症候群という、合成化学物質が住環境や人体に与える影響が明らかになり、家具類の塗装に前に述べたような自然由来原料の塗料が見直されています。なかでも荏胡麻(エゴマ)や亜麻仁(アマニ)などの植物から採れる乾性の油を主成分としたオイル塗料がその代表格と言えるでしょう。

オイル塗料を用いた「オイルフィニッシュ」は1950年頃、“家具デザインの国”デンマークで開発された塗装法です。木材にオイルを浸透させたあと拭き磨きして仕上げます。美しい濡れ色に仕上がり、多少の水や汚れははじきます。また、硬い塗膜を形成しないため、木の調湿作用を妨げないという長所もあります。合成樹脂塗料と比べると、完璧な防汚・防水は望めませんし、浸透したオイル成分も年月を経ると乾いてしまいます。

しかしながらオイルフィニッシュの家具の場合は数年に一度、サンドペーパーで表面を研磨して汚れや染みを落とし、オイルやワックスを塗り足すことで、当初の姿をある程度取り戻すことができます。つまり、定期的に「手入れ」をくり返すことで木材の長い命に付き合うことができるのが、オイルフィニッシュに代表される、自然由来塗料による仕上げの意義と言えます。

木の経年変化を美しさとして受け止める

毎日使ってあげる、というのも「手入れ」のひとつかもしれません。オイルやワックスで仕上げられたテーブルは食事のあと特に汚れていなければ乾拭き、あるいは固く絞った濡れ布巾で拭けば十分です。日々拭き込むことで艶も生まれます。椅子ならば毎日座って衣類が触れることで乾拭きと同じ効果が得られます。

椅子デザイン研究家で武蔵野美術大学名誉教授の島崎信先生は、デンマーク王立芸術アカデミー在籍中の1959年にハンス・J・ウェグナーデザインの名作「Yチェア」の未塗装のものを手に入れ、ビーワックスとカルナバワックスを混合したもので自ら塗装を施し、以後60年大切に使われています。アームの手が触れる部分はそこだけ色が変わり、艶が深さを増しています。人の手の脂が付き、常に手のひらや衣類で磨かれるためで、島崎先生はこれを「ハンドワックス」と名付け、経年によって生まれる新たな美と位置付けています。

千葉大学名誉教授で人間工学・木材工学者であった小原二郎先生は、「木は私たちと同じくかつては命を持っていた生物材料である」と著書に書かれています。木は工業製品である前に生きものなのです。暮らしを共にし、日々触れることで生じる少しの傷や、時を経たことによる変化は、「味わい」としておおらかに受け入れ、またそれを「美しさ」と捉えることが、木のモノたちとの関係をより豊かにするのだと思います。

※笠原嘉人さんがレクチャーする、オイル仕上げのテーブルのメンテナンス方法(動画)を「家具用メンテナンスキット」の販売ページでご紹介しています。

笠原嘉人

笠原嘉人(かさはら・よしひと)

インテリア・プロダクトデザイナー
1961年静岡県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン科木工コース卒業。漆芸家の工房を経てインテリアデザイン事務所に勤務。1996年「笠原嘉人アトリエ」設立。食器・家具・インテリア・建築・環境デザインまでを手掛ける。主なプロジェクトに埼玉県・西川材(杉・ヒノキ)の有効利用のための製品開発デザイン、「君の椅子」2013年度デザイン。東京テクニカルカレッジインテリア科非常勤講師。

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